2023年11月7日 NHK Eテレ 思考のオルタナティブ バーマン編 無と向き合う世界観 サブカルチャー史から特別講義!

だが、そこに醒めた批判の目を向ける表現者は80年代にも居た。田中康夫。'80年、当時一橋大学の四年生だった田中が発表したデビュー作『なんとなく、クリスタル』は文藝賞を受賞、話題となる。

東京に暮らす若者たちの華やかだが空しさが漂う日常の物語。散りばめられたブランドやレストラン等の固有名詞と膨大な註が話題となった。

[モリス・バーマン]多くの若者はこれをカッコよくあるためのガイドとして見ていたのだと思います。最高のカプチーノを飲むにはどこに行けばいいのかといったようなものです。つまり彼らは要点を外していたのです。田中はそのすべてを”笑いもの”にしていたのです。彼は日本人がアメリカの消費文化を模倣するというパロディーをやっていたのです。

'80年代、日本の若者に田中のアイロニーがどう届いていたのか?いずれにせよ消費へと向かう人々の欲望は止まらない。その後バブル景気へと突き進んだ日本。空虚をひたすら消費で埋めるアメリカ型資本主義の渦に飲み込まれていったのか?(了)

『なんとなく、クリスタル』

  

交差点のところにある地下鉄の出口から、

品のいい女の人が出てくるのが見えた。

シャネルの白いワンピースを、

その人は着ているみたいだった。

横断歩道ですれ違うと、

かすかにゲランの香水のかおりがした。

三十二、三歳の素敵な奥様、

という感じだった。

 

<あと十年たったら、

私はどうなっているんだろう>

下り坂の表参道を走りながら考えた。

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「註の新たな註」 「いまクリ」と「もとクリ」、その記憶の円盤が舞い続ける時空。

ようこそ現在から1980年の東京、そして日本へ❣「✽文庫本化に際しての、ひとつの新たな長い註。」でお約束した「註の新たな註」は、両書に登場する「字句の解釈」に留まらず、高度消費社会の幕開けから現在に至る時代背景を、関連する僕の拙稿等も紹介しながら絵解きしていくサイトです。

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