2010年2月15日 TBSラジオ BATTLE TALK RADIO アクセス 真の保守とは何か いま政治リーダーに求めるもの 西部邁 田中康夫&渡辺真理

[渡辺真理]アクセス ナビゲーターの渡辺真理です。アクセス特集のポッドキャスティング、今回は隔週月曜日のトーク・パーソナリティ田中康夫さんです。アクセス特集「田中が言いたい!」今日は西部邁さんと一緒に進めていただきます。

[田中康夫]先ほどのBATTLE TALKの中でもエドマンド・バーク(Edmund Burke、1729年1月12日 - 1797年7月9日 は、アイルランド生まれのイギリスの政治思想家、哲学者、政治家。「保守主義の父」として知られる。ダブリンで富裕なアイルランド国教会信徒の家庭に生まれ、1765年から1794年までイギリス庶民院(下院)議員を務めた。- wikipedia)という言葉が出てきたんだけど、私のこの解釈で良いのかをまず西部さんに聞きたいんだけど、エドマンド・バークは先生も仰ったように「フランス革命なんてくそくらえ」と言ったと。それはフランス革命というものは、皆がフランス革命のような蜂起をせざるを得ないくらいに、社会のイデオロギー的な人たちだけじゃない、一般の人たちの矛盾があって放置していたからで、でもフランス革命で皆で拍手喝采をしたんだけれどその後リバウンドが来て、ヒトラーこそその時いなかったけれどナポレオンも来ちゃったと。だからやっぱり、地域の絆であったりあるいは家族の絆であったり、保守ってのは「決して何も変えないこと」じゃなくて「より良い社会にしていくために、インセサントに絶え間なく変革をする洞察力や気概や行動力を持った人でないといけない」って意味も彼は言ってたのかな?と思うんですけれども。

[西部邁]もちろん全くその通りですけれどもね。ちょっと尾ひれをつけると、バーク哲学のですね要諦を表す1つの言葉があって、それは先ほど言った「reform to conserve(保守するために改革しよう)」というのがそうで、もう1つありましてね、英語で言うと「プレスクリプション(prescription)」と言うんですね。今、「プレスクリプション」は薬局の「処方箋」のことですけども、元々はね「pre」=「あらかじめ」ね「scription」=「規定する」と。「人間が何かを考えるためには、まず大前提がなきゃいけない」と。大前提が自分のね、(こんなお粗末な)人生経験とかおつむの中からね、そんな揺るがすにできない大前提が出てくると考えるのは知識人の傲慢というもんであろうと。やっぱり何百何千年と言う歴史の中からね、普通、それを「コモンセンス(common sense)」= 「常識」って言うんでしょうけれどね、今で言えば「家族」とか「村」とか、その他そういうものからね、人間は結局、壊しながらも離れられないだろうと。何百何千年の歴史がそう言っているのならばね、とりあえず社会を論じる時の大前提としてね、一言で言えば「共同体的」なものをね、とりあえず大事だと言う前提から話を始めようぜ、ていう意味で「プレスクリプション」って言ったんですよね。

[田中]なるほど。

[西部]そういう意味じゃね、彼の言ってることはね近代知識人に対するね痛烈な批判なんですよ。

[田中]そうなの。分かります。だから彼は政治家であったけど、同時に「言論人」っていう言葉なんか使いたくないけど、やはり「ものを書き、しゃべる人」だったんですよね。

[西部]そうなんですよね。しかも彼の場合は政治家でしょ?しかもね、やっぱりあれなんですよ、宗教論もやるし美学ね、芸術論もやるし哲学論もやるというね。非常に素朴だけれどもものすごい大事なことを19世紀末に言ってたんですよね。だからヨーロッパのね、「まあまあの人たち」ってのはね結局あれですよ、エドマンド・バークに帰っていくんですよ。

[田中]なるほどね。

[西部]ところが日本の政治学(関係の書籍を)読もうが何を言おうがね、エドマンド・バークが出てきたとしたって、フットノート(脚注)にちょっと出てくるだけだ。

[田中]そうそうそう。「エドマンド・バークはフランス革命を批判したような人だから立派な保守だ」っていう。非常にアルゴリズムで捉えてて。

[西部]そうですね。

[田中]今お聞きして思ったのは、多分「テクノロジー(technology)」っていう言葉も日本は「技術」って言いますよね。「テクネ(techne)」は「芸術」だし。

[西部]そう。

[田中]「ロジア(logia)」はね。

[西部]「論理」ですよね。

[田中]「論理」だもんね。

[渡辺]「ロジー(-logy)」は「ロジック(logic)」の「論理」。

[西部]しかも僕ね、ギリシャ語なんかできないけれど、元々の「テクネ」っていうのはね、あれなんですよ「生活の知恵」も含むんですね。

[田中]ほうほうほう。

[西部]「奥さんとどう付き合うか」ね。

[渡辺]うんうん。

[田中]なるほど。

[西部]あの時代は奴隷制ですけれどもね、奴隷たちを雇うけどね、あんまりいじめたら奴隷が反乱するだろうと。どういう種類で主人と奴隷は付き合うべきかってね、それは非常に経験的な生活上の知恵を「テクネ」って言ってたんですね。

[田中]それはやっぱりだから「暗黙知」だったり先生が仰ってる「可謬性」っていう。

[西部]まあそれなんですよね。だから本当にねあれなんですよ、極論すると現代人は・・・、あっ、僕ねこういうことに昔気付いたの。今、我々さ「近代」って言うでしょ。

[渡辺]はい。

[西部]英語で言えば「モダン(modern)」ですよね。

[渡辺]「modern」ですね。

[西部]あのね、「モダン」の関連語はもう1つは「モード(mode)」なの「流行・様式」ね。それから「模型」ね、「モデル(model)」か。つまり「モダン」ってのは何かったらね、非常に単純化された、分かり易そうな「模型」がね、1つの「モード(流行・様式)」となって社会に拡がっていくというね。

[田中]ああ・・・。

[西部]それはもちろん、人類の普遍性だったり、やむを得なさだと思うけどね、なにも知識人までもがねそんな「モダニズム(modernism)」、「模型」の「モード」ね、そんなものにのめり込むことはなかろうという、そういう気がしますよね。そして一番あれなんですよ、「モデル」の「モード」を拡めたのは社会科学数多しと言えども実は経済学なんですよね。

[田中]うん。

[西部]とんでもない奴らだと思って。

[田中]だって経済は歴史現象だからね(笑)。2度と同じことは起きないのに確率論だって(笑)。

[西部]そういうことなんですね。

[田中]そうするとだから「事業仕分け」が今ウケてるってのも「事業仕分け」は最も「モデル」・・・(笑)。

[渡辺]はっはっは、「モデル」なんですか?(笑)。

[西部]「モデル」の「モード」なんですよね。

[田中]「モード」なんだね。

[西部](事業仕分けなんて)「やめなさい」っていうのに。

[田中]「本質」じゃないんだね。

[渡辺]でもそれが唯一・・・、唯一と言っちゃいけないかもしれませんけど9月以降、民主党がしたことって言ったら、ほぼ、皆さんの頭に浮かぶのは「事業仕分け」っていう「モデル」になってますね。

[田中]で、それは極めて「アメリカ的」なものだってことなんだよね。

[西部]「アメリカ的」なんですよね。

[田中]うん。

[西部]元々ね、「アメリカ」っていう国名からして怪しいよね。あれ、アメリゴ・ヴェスプッチって「詐欺師」の名前でしょ?

[田中]ふふふふ(笑)。

[西部]アメリカ人に言ってやるんですよ。「アメリカの国名(の由来)、知ってるか?」って言うと10人に1人か2人は知ってるのね(笑)。「ニシベ、やめてくれ」と(笑)。「まあまあ・・・」なんて言ってるけれど、アメリカ人が「良い」としたらね、そういうことを分かってるんですよね。「自分達は「北海道人」をはるかに上回る(西部氏は北海道出身)、結局は流れ者の国である」と。

[渡辺]うんうん。

[西部]「歴史感覚、持ちたいけどねやっぱり建国の由来からしても、自分達は悲しい哉、持てないんだ」って言ってるわけさ。そのことを認めた上でねアメリカと付き合えば良いものをね、「アメリカ様!」と。「アメリカを「モデル」にして「モード」にしてがんばりましょう」でしょ?それは小泉(純一郎氏)だったり、今の「事業仕分け」だったりしてるわけです。

[渡辺]うんうん。これでも、エンディングに続いて伺っていきますけれど、西部さんに今日のテーマのまとめとして、じゃあこの閉塞感が覆ってるっていうふうに皆さん、捉えてる中で、今求められてる哲学とか覚悟ってどんなところにあるのか?っていうことをエンディングでもう少々伺います。

*

[渡辺]西部さんに最後に伺いたいのが今、リーダーに求められてる哲学、覚悟ってどんなことなんでしょう。

[西部]なにかね、混ぜっ返すようで悪いんですけど、イギリスのあるね、100年くらい前の思想家(G・K・チェスタトン)が言ったことなんだけれど、「人生の目的なんて大したことないんだ」と。「1人のいい女を見つけること」。

[渡辺](笑)。

[西部]男の場合ね。

[田中]うん。

[西部]それから「1人の良い友達を見つけること」、それから「1個の良い思い出を持つこと」ね。それからもうちょっとついでに言うと「人生で何度も語りたい1冊の良い書物に会うこと」。「・・・以上の4点セットでおしめぇだ」って言った人が1936年に死んだ人で。それはともかくね、僕はやっぱり日本人の問題は、仰ってることは分かりますよ、「説得」とか「決断」とか。僕も言ってるけど、でもぐぅっとね、こうなんて言うんですか、自分に引き寄せて言うと、今の日本人ね、ともかく1人の良い異性にも会えずね、ましてや良い友達を1人も持つことができず、思い出なんてね、あって何もないんですよね。だからみんなして「同窓会だ同期会だ」ってどんちゃん騒ぎしてるだけでしょ?しかも1冊の良い書物なんてねぇ・・・、現代人、・・・まあいいや(笑)。ということでしょ。だから僕ね、もちろん、いろんな大き目のことも言えないわけじゃないけどね、案外そういうことを同時に考えておかないとね、「お前たち、イイ女にも良い友達も持てずにさ、国家がどうとか、世界がどうとか言える身分のモンかいね?」ってなことを誰かが言ってやんないとね、みんなチャラチャラ、新聞の見出しとかテレビのなんとか、しゃべりまくりますからね。

[渡辺](笑)。分かりました。

[田中]うん。

[西部]すいません(笑)。混ぜっ返すようで悪い。

[田中]いえいえ、それは先ほど言った「市場」ではなくて「市場(いちば)」というものであることが大事だっていうことでね。

[渡辺]そうですね。「マーケット(市場)」があって。

[西部]・・・と思うんですけどね。

[田中]だからそれは「コモンズ」だし「コミュニティ」かもしれない。

[西部]もし時間があれば・・・、びっくりしたのはね「money」、「お金」ね。あれの語源を1度調べたことがあって、あれはねギリシャの女神、ローマでも良いんだけどね、女神がね男女が結婚する時の「忠告」で「Moneta」(モネータ(Moneta)はローマ神話で女性の結婚生活、主に結婚、出産を守護する女神ユーノー(Juno)の添え名 - Wikipedia)、「男よ浮気するな」とかね、「女はましてや云々・・・」っていうね、そういうね、神様から来る「忠告(monere)」のあれが「Moneta」になって、それが「money」になるらしいっていうのね。

[渡辺]へー!?

[田中]ほう・・・。

[西部]だからね、経済学者が言うようなね、「(貨幣は)単なる媒介の手段」じゃないんですよ。

[田中]なるほど。でもそれはいつのまにか忘れちゃって報いが来てるんだね今。

[西部]お互い浮気はしないようにしましょうね(笑)。

[田中]はい(笑)。ありがとうございます。

[渡辺]ありがとうございました。

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